忍者ブログ
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

鬼の児放浪
              ――鬼の児の卵を割って五十年

    一

鬼の児がかへつてきた。ふるさとに
耳の大きな迷信どもは、
おそるおそる見まもる。この隕石を、
燃えふすぼつた黒い良心を。

かつて、鬼の児は、石ころと人間どもをのせた重い大地をせおひ、
霧と、はてしなきぬかるみを、ゆき悩んだ。

あるひは首を忘れた鴎のとぶ海の洟しるを。
ふなむしの逃げちるふくろ小路を。
暗渠を。むし歯くさいぢごく宿を。

    二

こよひ、胎内を出て、月は、
荊棘のなかをさまよふ。

若い月日を、あたら
としよりじみてすごし。

鬼の児の素性を羞ぢて、
蝋燭のやうに
それを吹消すことを学んだ。

天からくだる美しい人の蹠をおもうては、
はなびらをふんで
ふたたびかへることをねがはず、

鬼の児は、時に、山師共と銭を数へ、
たばことものぐさに日をくらした。

鬼の児は、憩ない蝶のやうに旅にいで、
草の穂の頭をしてもどつてきた。

鬼の児はいま、ひんまがつた
じぶんの骨を抱きしめて泣く。

一本の角は折れ、
一本の角は笛のやうに
天心を指して嘯く。
「鬼の児は俺ぢやない
おまへたちだぞ」
PR
          
この記事にコメントする
お名前
タイトル
メール(非公開)
URL
文字色
絵文字 Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
コメント
パスワード   コメント編集に必要です
 管理人のみ閲覧
この記事へのトラックバック
トラックバックURL:
Copyright ©  -- 倫敦橋の隠れ里 --  All Rights Reserved
Design by CriCri / Material by 妙の宴
powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]