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私は世を愛しなかった

     1

私は世を愛しなかった、世もまた私を――
彼らの臭い呼吸のまえに諂(へつら)ったこともなく
彼らの偶像の前に、恭しく膝を屈したこともない
心にない笑みを頬に浮かべもしなかった
うつろな木霊を崇めて、高らかに叫んだこともなく
人群れの中にありながら、その仲間とは扱われなかった
彼らと交りながら、ただ独り立っていた
死衣のように、人と異なる思想を身にまとった
今もなお、というべくは、あまりに心屈して汚れたのだが――。

     2

私は世を愛しなかった、世もまた私を――
所詮、敵ならばいさぎよく袂を別とう
だが私は信じたい、彼らには裏切られたが
真実(まこと)ある言葉、欺きえぬ希望があり
めぐみ深く、過失(あやまち)の穽を造らぬ美徳があると
また、人の悲しみを心から悲しむものもおり
一人か二人かは、見かけと変わらぬものもあり
善とは名ばかりでなく、幸福とは夢でない、と。




阿部知二訳
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