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さうよ!そいつが俺の癖だあ。いやがらせするのが俺の楽しみだあ。俺(おり)や憎まれたいんだ。
ねえ、おい、白い目を剥いている奴らの前がどんなに通り甲斐があるか、貴様らにやわかるまい!
猜(そね)む奴らの憤悪や卑劣な奴らの罵倒が、どんなに面白い斑点(まだら)を胴衣につけるかわかるまい!
――貴様達のふやけた友情なんか、ふわ/\のぺら/\の嵌(は)めた首がぐにや/\になる伊太利亜襟(カラア)宜しくだ。嵌めた気持ちは楽だろうが‥‥意気軒昂とは行くまい。
首に支えも掟もないから、彼方(あつち)へぐら/\此方(こつち)へぐら/\だ。
其処へ行くと俺なんざあ、憎しみが、面(つら)で風をきるやうにと、毎日糊づけの硬襟(かたえり)を嵌めて用心してくれるのだ。
敵が増えりや襟(カラア)の襞飾(ひだかざり)も殖えやう、窮屈にもならうが威光も増さう。
どこからどこまで西班牙(イスパニア)式の襟(カラア)のやうに、憎しみは首かせでもありや又後光でもあらあ!
エドモン・ロスタン作 辰野隆・鈴木信太郎訳
新字旧仮名、太字は傍点、振り仮名は難字のみに
「くの字点」は「/\」で表しました。
ねえ、おい、白い目を剥いている奴らの前がどんなに通り甲斐があるか、貴様らにやわかるまい!
猜(そね)む奴らの憤悪や卑劣な奴らの罵倒が、どんなに面白い斑点(まだら)を胴衣につけるかわかるまい!
――貴様達のふやけた友情なんか、ふわ/\のぺら/\の嵌(は)めた首がぐにや/\になる伊太利亜襟(カラア)宜しくだ。嵌めた気持ちは楽だろうが‥‥意気軒昂とは行くまい。
首に支えも掟もないから、彼方(あつち)へぐら/\此方(こつち)へぐら/\だ。
其処へ行くと俺なんざあ、憎しみが、面(つら)で風をきるやうにと、毎日糊づけの硬襟(かたえり)を嵌めて用心してくれるのだ。
敵が増えりや襟(カラア)の襞飾(ひだかざり)も殖えやう、窮屈にもならうが威光も増さう。
どこからどこまで西班牙(イスパニア)式の襟(カラア)のやうに、憎しみは首かせでもありや又後光でもあらあ!
エドモン・ロスタン作 辰野隆・鈴木信太郎訳
新字旧仮名、太字は傍点、振り仮名は難字のみに
「くの字点」は「/\」で表しました。
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ジァン・モレアス
賦
色に賞でにし紅薔薇、日にけに花は散りはてて、
唐棣色よき若立も、季ことごとくしめあへず、
そよそよ風の手枕に、はや日数経しけふの日や、
つれなき北の木枯に、河氷るべきながめかな。
噫、歓楽よ、今さらに、なじかは、せめて争はむ。
知らずや、かゝる雄誥の、世に類無く烏滸なるを。
ゆゑだもなくて、徒に痴れたる思ひ、去りもあへず、
「悲哀」の琴の糸の緒を、ゆし按ずるぞ無益なる。
*
ゆめ、な語りそ、人の世は悦おほき宴ぞと。
そは愚かしきあだ心、はたや卑しき痴れごこち。
ことに歎くな、現世を涯も知らぬ苦界よと。
益無き勇の逸気は、たゞいち早く悔いぬらむ。
春日霞みて、葦蘆のさゞめくが如、笑みわたれ。
磯浜かけて風騒ぎ、波おとなふがごと、泣けよ。
一切の快楽を尽し、一切の苦患に堪へて、
豊の世と称ふるもよL、夢の世と観ずるもよし。
*
死者のみひとり吾に聴く、奥津城処、わが栖家。
世を終ふるまで、吾はしも己が心のあだがたき。
忘恩に栄華は尽きむ、里鴉畠をあらさむ、
収穫時の頼なきも、吾はいそしみて種を播かむ。
ゆめ自らは悲まじ。世の木枯もなにかあらむ、
あはれ侮蔑や、誹謗をや、大凶事の迫害をや。
たゞ詩の神の箜篌の上、指をふるれば、わが楽の
日毎に清く澄みわたり、霊妙音の鳴るが楽しさ。
*
長雨空の喪過ぎて、さすや忽ち薄日影、
冠の花葉ふりおとす栗の林の枝の上に、
水のおもてに、遅花の花壇の上に、わが目にも、
照り添ふ匂なつかしき秋の日脚の白みたる。
日よ、何の意ぞ、夏花のこぼれて散るも惜しからじ、
はた禁めえじ、落葉の風のまにまに吹き交ふも。
水や曇れ、空も鈍びよ、たゞ悲のわれに在らば、
想はこれに養はれ、心はために勇をえむ。
*
われは夢む、滄海の天の色、哀深き入日の影を、
わだつみの灘は荒れて、風を痛み甚振る波を、
また思ふ、釣船の海人の子を、巌穴に隠ろふ蟹を、
青眼のネアイラを、グラウコス、プロオティウスを。
又思ふ、路の辺をあさりゆく物乞の漂浪人を、
栖み慣れし軒端がもとに、休ひゐる賎が翁を、
斧の柄を手握りもちて、肩かゞむ杣の工を、
げに思ひいづ、鳴神の都の騒擾、村肝の心の痍を。
*
この一切の無益なる世の煩累を振りすてて、
もの恐ろしく汚れたる都の憂あとにして、
終に分け入る森陰の清しき宿求めえなば、
光も澄める湖の静けき岸にわれは悟らむ。
否、寧われはおほわだの波うちぎはに夢みむ。
幼年の日を養ひし大揺籃のわだつみよ、
ほだしも波の鴎鳥、呼びかふ声を耳にして、
磯根に近き岩枕、汚れし眼、洗はばや。
*
噫いち早く襲ひ来る冬の日、なにか恐るべき。
春の卯月の贈物、われはや既に尽し果て、
秋のみのりのえぴかづら葡萄も摘まず、新麦の
豊の足穂も他し人、苅り干しにけむ、いっの間に。
*
けふは照日の映々と青葉高麦生ひ茂る
大野が上に空高く靡かひ浮ぶ旗雲よ。
和ぎたる海を白帆あげて朱の曾保船走るごと、
変化乏しき青天をすべりゆくなる白雲よ。
時ならずして、汝も亦近づく暴風の先駆と、
みだれ姿の影黒み蹙める空を翔りゆかむ、
嗚呼、大空の馳使、添はばや、なれにわが心、
心は汝に通へども、世の人たえて汲む者も無し。
賦
色に賞でにし紅薔薇、日にけに花は散りはてて、
唐棣色よき若立も、季ことごとくしめあへず、
そよそよ風の手枕に、はや日数経しけふの日や、
つれなき北の木枯に、河氷るべきながめかな。
噫、歓楽よ、今さらに、なじかは、せめて争はむ。
知らずや、かゝる雄誥の、世に類無く烏滸なるを。
ゆゑだもなくて、徒に痴れたる思ひ、去りもあへず、
「悲哀」の琴の糸の緒を、ゆし按ずるぞ無益なる。
*
ゆめ、な語りそ、人の世は悦おほき宴ぞと。
そは愚かしきあだ心、はたや卑しき痴れごこち。
ことに歎くな、現世を涯も知らぬ苦界よと。
益無き勇の逸気は、たゞいち早く悔いぬらむ。
春日霞みて、葦蘆のさゞめくが如、笑みわたれ。
磯浜かけて風騒ぎ、波おとなふがごと、泣けよ。
一切の快楽を尽し、一切の苦患に堪へて、
豊の世と称ふるもよL、夢の世と観ずるもよし。
*
死者のみひとり吾に聴く、奥津城処、わが栖家。
世を終ふるまで、吾はしも己が心のあだがたき。
忘恩に栄華は尽きむ、里鴉畠をあらさむ、
収穫時の頼なきも、吾はいそしみて種を播かむ。
ゆめ自らは悲まじ。世の木枯もなにかあらむ、
あはれ侮蔑や、誹謗をや、大凶事の迫害をや。
たゞ詩の神の箜篌の上、指をふるれば、わが楽の
日毎に清く澄みわたり、霊妙音の鳴るが楽しさ。
*
長雨空の喪過ぎて、さすや忽ち薄日影、
冠の花葉ふりおとす栗の林の枝の上に、
水のおもてに、遅花の花壇の上に、わが目にも、
照り添ふ匂なつかしき秋の日脚の白みたる。
日よ、何の意ぞ、夏花のこぼれて散るも惜しからじ、
はた禁めえじ、落葉の風のまにまに吹き交ふも。
水や曇れ、空も鈍びよ、たゞ悲のわれに在らば、
想はこれに養はれ、心はために勇をえむ。
*
われは夢む、滄海の天の色、哀深き入日の影を、
わだつみの灘は荒れて、風を痛み甚振る波を、
また思ふ、釣船の海人の子を、巌穴に隠ろふ蟹を、
青眼のネアイラを、グラウコス、プロオティウスを。
又思ふ、路の辺をあさりゆく物乞の漂浪人を、
栖み慣れし軒端がもとに、休ひゐる賎が翁を、
斧の柄を手握りもちて、肩かゞむ杣の工を、
げに思ひいづ、鳴神の都の騒擾、村肝の心の痍を。
*
この一切の無益なる世の煩累を振りすてて、
もの恐ろしく汚れたる都の憂あとにして、
終に分け入る森陰の清しき宿求めえなば、
光も澄める湖の静けき岸にわれは悟らむ。
否、寧われはおほわだの波うちぎはに夢みむ。
幼年の日を養ひし大揺籃のわだつみよ、
ほだしも波の鴎鳥、呼びかふ声を耳にして、
磯根に近き岩枕、汚れし眼、洗はばや。
*
噫いち早く襲ひ来る冬の日、なにか恐るべき。
春の卯月の贈物、われはや既に尽し果て、
秋のみのりのえぴかづら葡萄も摘まず、新麦の
豊の足穂も他し人、苅り干しにけむ、いっの間に。
*
けふは照日の映々と青葉高麦生ひ茂る
大野が上に空高く靡かひ浮ぶ旗雲よ。
和ぎたる海を白帆あげて朱の曾保船走るごと、
変化乏しき青天をすべりゆくなる白雲よ。
時ならずして、汝も亦近づく暴風の先駆と、
みだれ姿の影黒み蹙める空を翔りゆかむ、
嗚呼、大空の馳使、添はばや、なれにわが心、
心は汝に通へども、世の人たえて汲む者も無し。
だんだら縞のながい影を曳き、みわたすかぎり頭をそろへて、礼拝してゐる奴らの群衆のなかで、
侮蔑しきったそぶりで、
ただひとり、
反対をむいてすましてるやつ。
おいら。
おつとせいのきらひなおつとせい。
だが、やつぱりおつとせいはおつとせいで
ただ
「むかうむきになつている
おつとせい」
「おつとせい」の一節
侮蔑しきったそぶりで、
ただひとり、
反対をむいてすましてるやつ。
おいら。
おつとせいのきらひなおつとせい。
だが、やつぱりおつとせいはおつとせいで
ただ
「むかうむきになつている
おつとせい」
「おつとせい」の一節
鬼の児放浪
――鬼の児の卵を割って五十年
一
鬼の児がかへつてきた。ふるさとに
耳の大きな迷信どもは、
おそるおそる見まもる。この隕石を、
燃えふすぼつた黒い良心を。
かつて、鬼の児は、石ころと人間どもをのせた重い大地をせおひ、
霧と、はてしなきぬかるみを、ゆき悩んだ。
あるひは首を忘れた鴎のとぶ海の洟しるを。
ふなむしの逃げちるふくろ小路を。
暗渠を。むし歯くさいぢごく宿を。
二
こよひ、胎内を出て、月は、
荊棘のなかをさまよふ。
若い月日を、あたら
としよりじみてすごし。
鬼の児の素性を羞ぢて、
蝋燭のやうに
それを吹消すことを学んだ。
天からくだる美しい人の蹠をおもうては、
はなびらをふんで
ふたたびかへることをねがはず、
鬼の児は、時に、山師共と銭を数へ、
たばことものぐさに日をくらした。
鬼の児は、憩ない蝶のやうに旅にいで、
草の穂の頭をしてもどつてきた。
鬼の児はいま、ひんまがつた
じぶんの骨を抱きしめて泣く。
一本の角は折れ、
一本の角は笛のやうに
天心を指して嘯く。
「鬼の児は俺ぢやない
おまへたちだぞ」
――鬼の児の卵を割って五十年
一
鬼の児がかへつてきた。ふるさとに
耳の大きな迷信どもは、
おそるおそる見まもる。この隕石を、
燃えふすぼつた黒い良心を。
かつて、鬼の児は、石ころと人間どもをのせた重い大地をせおひ、
霧と、はてしなきぬかるみを、ゆき悩んだ。
あるひは首を忘れた鴎のとぶ海の洟しるを。
ふなむしの逃げちるふくろ小路を。
暗渠を。むし歯くさいぢごく宿を。
二
こよひ、胎内を出て、月は、
荊棘のなかをさまよふ。
若い月日を、あたら
としよりじみてすごし。
鬼の児の素性を羞ぢて、
蝋燭のやうに
それを吹消すことを学んだ。
天からくだる美しい人の蹠をおもうては、
はなびらをふんで
ふたたびかへることをねがはず、
鬼の児は、時に、山師共と銭を数へ、
たばことものぐさに日をくらした。
鬼の児は、憩ない蝶のやうに旅にいで、
草の穂の頭をしてもどつてきた。
鬼の児はいま、ひんまがつた
じぶんの骨を抱きしめて泣く。
一本の角は折れ、
一本の角は笛のやうに
天心を指して嘯く。
「鬼の児は俺ぢやない
おまへたちだぞ」
うつろな男たち くるつサン――死ンダヨ
ガイの奴に1ペニーやっとくれ
俺たちのなかみはからっぽだ
俺たちのなかみはつめものだ
よりそって立ってはみるが
頭のなかは藁のくず、ああ!
俺たちがささやくと
乾いた声が
ひそやかにとりとめもなく
まるで枯草をふきわたる風
それともかわいた穴倉で
こわれガラスを跳びはねる鼠の足音か
かたちのないすがた、色のないかげ、
萎えたちから、うごきのない身ぶり。
眼ざしそらせずに死のべつの王国へ
渡っていった者たちが
俺たちのことを憶えているとしたところで
呪われた激しい魂としてではなく、たかだか
うつろな男たちとして
つめものをした男たちとして憶えているだけだ。
高松雄一訳
ガイの奴に1ペニーやっとくれ
俺たちのなかみはからっぽだ
俺たちのなかみはつめものだ
よりそって立ってはみるが
頭のなかは藁のくず、ああ!
俺たちがささやくと
乾いた声が
ひそやかにとりとめもなく
まるで枯草をふきわたる風
それともかわいた穴倉で
こわれガラスを跳びはねる鼠の足音か
かたちのないすがた、色のないかげ、
萎えたちから、うごきのない身ぶり。
眼ざしそらせずに死のべつの王国へ
渡っていった者たちが
俺たちのことを憶えているとしたところで
呪われた激しい魂としてではなく、たかだか
うつろな男たちとして
つめものをした男たちとして憶えているだけだ。
高松雄一訳