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 自由


小学校のノートに
ぼくの机に、木々に
砂に、雪に
ぼくは書く 君の名前を

読んだすべてページに
白いすべてのページに
石に、血に、紙に、灰に
ぼくは書く 君の名前を

金ぴかの肖像に
戦士の武器に
王様の冠に
ぼくは書く 君の名前を

ジャングルに、砂漠に
獣や鳥の巣に、エニシダに
子供時代の木霊に
ぼくは書く 君の名前を

夜の素晴らしい時に
昼の白いパンに
婚約した季節に
ぼくは書く 君の名前を

ぼくの青空の切れ端すべてに
カビた太陽の池に
輝く月の湖に
ぼくは書く 君の名前を

野に、地平線に
鳥たちの翼に
さらに影の風車に
ぼくは書く 君の名前を

夜明けの息のそれぞれに
海に、船に
とてつもなく高い山に
ぼくは書く 君の名前を

雲たちの泡に
嵐の汗に
降りしきる退屈な雨に
ぼくは書く 君の名前を

きらめく形象に
色とりどりの鐘に
自然の真理に
ぼくは書く 君の名前を

目覚めた小道に
広がった道路に
あふれる広場に
ぼくは書く 君の名前を

ともる灯りに
消える灯りに
集まったぼくの家々に
ぼくは書く 君の名前を

ふたつに切られた
鏡の中と、ぼくの部屋の果物に
空っぽの貝殻のぼくのベッドに
ぼくは書く 君の名前を

食いしん坊で大人しいぼくの犬に
その立てた耳に
そのぎこちない前足に
ぼくは書く 君の名前を

ぼくの戸口の踏み台に
慣れ親しんだ物に
祝福された炎の波に
ぼくは書く 君の名前を

同意した全ての肉体に
友だちの額に
差しのべられた手それぞれに
ぼくは書く 君の名前を

驚きのガラスに
沈黙よりはるかに
慎み深い唇に
ぼくは書く 君の名前を

破壊されたぼくの隠れ家に
崩れ落ちたぼくの灯台に
ぼくの倦怠の壁に
ぼくは書く 君の名前を

希望のない不在に
裸の孤独に
死の歩みに
ぼくは書く 君の名前を

よみがえった健康に
消えた危機に
記憶のない希望に
ぼくは書く 君の名前を

そして、ひとつの言葉の力で
ぼくはまた人生を始める
ほくは君を知るために生まれた
君に名づけるために

自由(Liberte)と。






この詩は、第二次世界大戦中にレジスタンス達に愛唱されました。 
5月革命の時も広く口ずさまれています。

大島弓子 「四月怪談」(文庫)
に収録されている「ローズティーセレモニー」(初出1976年月刊ミミ4月号)にも、この詩が出てきます。
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あなたにとって私の名前が何だというのか?


あなたにとって私の名前が何だというのか?
それは悲しいノイズのように消えてしまうだろう
はるかな岸辺に打ち寄せる波のように
静かな森の中の夜のこだまのように

それは思い出のアルバムの上に
命を失って跡をとどめるだけだ、ちょうど
石の上に刻み込まれた墓碑銘が
もはや読み取れなくなってしまうのと同じく

そこにあるのは何だ? 久しく忘れ去られて
日々の刺激に満ちた暮らしの中では
あなたの胸の中にもよみがえりはしない
懐かしくも清らかな思い出だ

だが、もし悲しくなったときには、おだやかに
私の名を口ずさむがいい
そうだ、誰かはきっと自分のことを覚えてくれているのだ
世界にはきっとある、私がまだその中に生きている心が...




Chto v imeni tebe mojom?

Chto v imeni tebe moem?
Ono umret,kak shum pechal’nyj
Volny,plesnuvshej v bereg dal’nyj,
Kak zvuk nochnoj v lesu glukhom.

Ono na pamjatnom listke
Ostavit mertvyj sled,podobnyj
Uzoru nadpisi nadgrobnoj
Na neponjatnom jazyke.

CHto v nem? Zabytoe davno
V volnen’jakh novykh i mjatezhnykh,
Tvoej dushe ne dast ono
Vospominanij chistykh,nezhnykh.

No v den’ pechali,v tishine,
Proiznesi ego toskuja;
Skazhi: est’ pamjat’ obo mne,
Est’ v mire serdtse,gde zhivu ja...


Aleksandr Sergeyevich Pushkin
粗暴なやつには 喜びがあり、
やさしいやつには なげきがあるが、
ぼくはなんにも 欲しくない、
誰が気の毒というわけもない。

気の毒といえば そいつはぼく自身のこと――ちっとばかりおかわいそう。
宿なしの野良犬たちもかわいそう。
さて だから――
居酒屋へまっしぐらに入りびたったというわけだ。

きみたち ちみもうりょうの亡者のくせに、なんだって ぼくに悪態をつく?
それともなにかい、もう同国人あつかいはできんとでも言うのかね?
ちょいとした酒代(さかて)が要れば
パンツまで質に入れあげたおたがいではないか。

濁り目を 窓に向ければ
胸のうさ 焼けつくばかり
街道 ひとり陽の中に濡れに濡れ
とめどなく 寄せてかえす。

街道に小僧がいる。鼻たれ小僧がひとりいる。
空気は焼け むさくれてカラカラよ。
この小僧 とってもしあわせなできなんだ。
鼻くそほじりに ほうけてる。

ほじくれ、ほじくれ、かわいいやつ、ういやつ。
その指を つけ根まで押し込みな。
けどな、そう、そんなどえらい力でな、
てめえの心に突っ込むのだけは止めときな。

わしかい? わしぁもうおしまい――おじけづいてる。
ごらんよ この瓶の林を!
コルクをこうしてあつめてる――
なに、心に栓をするためさ。




「与太もんの愛恋」の一節 内村剛介訳
 わるくち

いまではあなたは
人のうわさばかり気にしていて
人のうわさばかり気にしていることを
恥じもせずだれかれしゃべっていると
わたしは人のうわさで知りました
むかしのあなたは
人のうわさなど気にしたくない
人のうわさなど気にする自分をどうかしてほしいと
恥ずかしそうにでもはっきりと言ったのを
わたしはわたしの耳で聞きました

女はそばにいる男しだいでどうにでもなる
そんな程度低いことばさえ
わめきたくなる! わめきたくなる!
あんたは忘れられればいいんだ
あんたのことなど誰ひとり憶えていないほうがいい

わたしだけが憶えていてあげよう
なんてキザなセリフもひとりごとでならいえますよ
でもわたしはわたしの悔しさ伝えるために
ひとのうわさなど利用しないからね
──バカですねえ あなたも





 もとより友とする者とてもなく

追われたのでもなく
逃げだしたのでもなく
川があるから川を渡った
山があるから山に入った
雨が降り雷も鳴ってはいたが……
探したのでもなく
切に求めたのでもなく
疲れたから口をあけてただ眠った
入道雲の峰を越え
黒い馬が踊りでて
まっすぐに頭上に駆けてきて
ふいにその腹が裂け血と内臓がばらばら降ってきた
目をひらくと
松の根元にミヤコワスレの花が咲いていた

美しいものはもうないと思いきめて生きてきた
美しい風景 色も形もコトバも
そんなものはクソクラエだと思いつめて生きのびてきた
生まれてこない人生のほうがどんなに生きやすかったこ
 とか

風の小さな渦の中の
ミヤコワスレの花よ
おまえの可愛いい悪意をどうしてくれよう!
忘れよと
あのひとの名を告げるなんて




秋山基夫詩集『古風な恋唄』かわら版・刊(1980) 全篇
http://www.interq.or.jp/www1/ipsenon/p/aki4.html

秋山基夫集
http://www.interq.or.jp/www1/ipsenon/p/info11.html#akiyama

ミヤコワスレの花

ミヤコワスレ
ほどよい天寿をかえりみず
さらに長い命を望む人は、
わたしに言わせれば、明らかに、
心のうちに愚かしさを抱きつづける者だ。
長い日々は、まことに、
喜びよりは苦しみに近いことを
山ほど用意している。
人が度を超して生きつづけていると、
喜びは、どこにも見あたるまい。
そして、万人に同じ終結をもたらす救済者が訪れる。
ハーデースの運命が、婚礼の祝い歌もなく、
琴の音も、舞いもなしに姿を見せた刹那、ついに死が。

生まれて来ないのが何よりもましだ。
が、この世に出て来てしまった以上は
もとのところに、なるべく早く
帰ったほうが、それに次いで、ずっとましだ。
つまらない軽はずみとともに
青春が過ぎ去れば
つらい苦難から、誰が逃れ出られよう。
いかなる苦労が避けてくれよう。
妬み、不和、争い、戦い、
それに殺人。そしてついに、突如やってくるのが
忌み嫌われる、無力な、人付き合いの悪い
友もない老境だ。それに禍いの中の
禍いが、すべて、まつわり付いてくる。



コロス(合唱隊)の歌  引地正俊 訳
 
 
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