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私は世を愛しなかった
1
私は世を愛しなかった、世もまた私を――
彼らの臭い呼吸のまえに諂(へつら)ったこともなく
彼らの偶像の前に、恭しく膝を屈したこともない
心にない笑みを頬に浮かべもしなかった
うつろな木霊を崇めて、高らかに叫んだこともなく
人群れの中にありながら、その仲間とは扱われなかった
彼らと交りながら、ただ独り立っていた
死衣のように、人と異なる思想を身にまとった
今もなお、というべくは、あまりに心屈して汚れたのだが――。
2
私は世を愛しなかった、世もまた私を――
所詮、敵ならばいさぎよく袂を別とう
だが私は信じたい、彼らには裏切られたが
真実(まこと)ある言葉、欺きえぬ希望があり
めぐみ深く、過失(あやまち)の穽を造らぬ美徳があると
また、人の悲しみを心から悲しむものもおり
一人か二人かは、見かけと変わらぬものもあり
善とは名ばかりでなく、幸福とは夢でない、と。
阿部知二訳
1
私は世を愛しなかった、世もまた私を――
彼らの臭い呼吸のまえに諂(へつら)ったこともなく
彼らの偶像の前に、恭しく膝を屈したこともない
心にない笑みを頬に浮かべもしなかった
うつろな木霊を崇めて、高らかに叫んだこともなく
人群れの中にありながら、その仲間とは扱われなかった
彼らと交りながら、ただ独り立っていた
死衣のように、人と異なる思想を身にまとった
今もなお、というべくは、あまりに心屈して汚れたのだが――。
2
私は世を愛しなかった、世もまた私を――
所詮、敵ならばいさぎよく袂を別とう
だが私は信じたい、彼らには裏切られたが
真実(まこと)ある言葉、欺きえぬ希望があり
めぐみ深く、過失(あやまち)の穽を造らぬ美徳があると
また、人の悲しみを心から悲しむものもおり
一人か二人かは、見かけと変わらぬものもあり
善とは名ばかりでなく、幸福とは夢でない、と。
阿部知二訳
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全く人間という奴はこうしたもんです!
どいつもこいつも違えばこそ。
隣の人が不幸に襲われれば、大口あいて喜んでいる。
恐ろしい火の手が上がると、それっと皆駆け出す。
痛ましや、哀れな罪人が仕置場にひかれて行くと言えば、みな見に出る。
今日も今日とて、罪もない避難民の気の毒な様を見に、
みな遊山みたいに出かけるのです。同じ運命が、すぐとは言わないまでも、
いずれは自分の身の上を見舞うことを考える者とてありません。
こうした浮ついた気持ちは勘弁なりませぬが、やはり人間の持ち前ですなあ。
「ヘルマンとドロテーア」第一の歌から 高橋健二訳
どいつもこいつも違えばこそ。
隣の人が不幸に襲われれば、大口あいて喜んでいる。
恐ろしい火の手が上がると、それっと皆駆け出す。
痛ましや、哀れな罪人が仕置場にひかれて行くと言えば、みな見に出る。
今日も今日とて、罪もない避難民の気の毒な様を見に、
みな遊山みたいに出かけるのです。同じ運命が、すぐとは言わないまでも、
いずれは自分の身の上を見舞うことを考える者とてありません。
こうした浮ついた気持ちは勘弁なりませぬが、やはり人間の持ち前ですなあ。
「ヘルマンとドロテーア」第一の歌から 高橋健二訳
『王さま。おまえはいつもそうだったな。
ラケットで玉をはね返す心得で
わしらの願書を受け取る係の、おまえの腹黒い家来とぐるになって
小遣いかせぎをしていたじゃないか。それがみな、おまえのわるがしこささ。
性悪な家来どもは、さもさも見くだしたようにわしらのほうを見て、
なんてえ馬鹿な奴らだ、と低い声で、ひとり言をいってたものだ。
薔薇のうつくしい布告や、薬品をみたした小壺の封印をしたり、
悪法令の準備をいそいだり、
いかに手際よく人頭税をかけるかをたのしんだり、その手あいときたら
わしらがそばを歩くと、くさいと言わんばかりのそぶりなのだ。
(わしらをきたないとおっしゃるのは、おどろいたね。
それが、わしらの親切な代理人さんたちなんだ!)
恐るるものを無くするためには、銃槍しかないとはどうだ!
よろしい。あいつらの鈴のついた煙草入れなんかに用はない。
わしらは、あんな低脳や、穀つぶしどもには倦々してる。市民よ。
わしらが勇敢で、すでに、王笏や、僧杖をぶち折ったとき、
ささげられた御馳走というのが、こんなんだね?』
ランボー詩集 拾遺「鍛冶屋」の一節 金子光晴訳
ラケットで玉をはね返す心得で
わしらの願書を受け取る係の、おまえの腹黒い家来とぐるになって
小遣いかせぎをしていたじゃないか。それがみな、おまえのわるがしこささ。
性悪な家来どもは、さもさも見くだしたようにわしらのほうを見て、
なんてえ馬鹿な奴らだ、と低い声で、ひとり言をいってたものだ。
薔薇のうつくしい布告や、薬品をみたした小壺の封印をしたり、
悪法令の準備をいそいだり、
いかに手際よく人頭税をかけるかをたのしんだり、その手あいときたら
わしらがそばを歩くと、くさいと言わんばかりのそぶりなのだ。
(わしらをきたないとおっしゃるのは、おどろいたね。
それが、わしらの親切な代理人さんたちなんだ!)
恐るるものを無くするためには、銃槍しかないとはどうだ!
よろしい。あいつらの鈴のついた煙草入れなんかに用はない。
わしらは、あんな低脳や、穀つぶしどもには倦々してる。市民よ。
わしらが勇敢で、すでに、王笏や、僧杖をぶち折ったとき、
ささげられた御馳走というのが、こんなんだね?』
ランボー詩集 拾遺「鍛冶屋」の一節 金子光晴訳
読者に
愚行、あやまち、罪、出し惜しみ、
われらの心を占領し、われらの体をさいなむはこれ、
そこでわれらはおなじみの悔恨どもを飼いふとらせる、
乞食が虱を養っているのと同じこと。
われらの罪の執念深さ、後悔の方のだらしなさ。
告白すればたっぷり元が取れた気になって、
意気揚々と立ち戻る泥んこの道、
いやしい涙で汚れをすっかり洗い流したつもりなのさ。
悪の枕もとには「大魔王サタン」がはべり
みいられたわれらの心をいつまでも揺すってくれる、
われらの意志という、値打ちの高いあの金属も
この錬金博士にかかっては跡かたもなく蒸発する。
要するに「悪魔」に糸を引かれているんだ!
胸くそ悪い品々ばかりに気をそそられて、
日ごと「地獄」の方へ一歩一歩とおりて行くんだ、
恐れも知らず、悪臭ふんぷんの闇をわたって。
たとえば貧しい道楽者が、年を経た淫売の
見るも無惨な乳房を舐めたり噛んだりするように、
われらは道々ひそかな快楽を盗み取っては
そいつをしなびたオレンジみたいにとことん搾りぬく。
百万匹の蛔虫さながら、ひしめき、うごめき、
われらの脳味噌の中では「悪霊」の群れが乱痴気さわぎ、
そこでわれらが息を吸うたび、肺の中へと流れこむのは
「死」だ、見えない河さ、かすかな嘆きの声を立てて。
かりに強姦、毒殺、刺殺、放火のたぐいが、
それぞれの楽しい図柄で、いまもって
われらの哀れな運命の陳腐な画面を賑わせていないとすれば、
それはわれらの魂が、なさけなや!度胸に欠けるだけのこと。
だが、ジャッカルや、豹や、山犬や、
猿や、蠍や、禿鷹や、蛇や、
およそわめいて、吠えて、唸って、地を這う怪物どもが、
われらの悪徳のおぞましい動物園を形づくっている中に、
一匹だけ、もっと醜い、もっと邪悪な、もっと下劣な奴がいる!
大げさな身ぶりもせず 大きな声も立てないが、
いざとなれば喜んで地球を廃墟にするかも知れず、
あくび一つに世界を呑んでしまうかも知れない。
その名は「倦怠」! ――思わずも目をうるませて、
水煙管をふかしながら死刑台の夢を見ている。
ご存じですな、読者よ、扱いにくいこの怪物を、
――偽善の読者よ、――わが同類、――わが兄弟よ!
ボードレーヌ「悪の華」序詩 安藤元雄訳
愚行、あやまち、罪、出し惜しみ、
われらの心を占領し、われらの体をさいなむはこれ、
そこでわれらはおなじみの悔恨どもを飼いふとらせる、
乞食が虱を養っているのと同じこと。
われらの罪の執念深さ、後悔の方のだらしなさ。
告白すればたっぷり元が取れた気になって、
意気揚々と立ち戻る泥んこの道、
いやしい涙で汚れをすっかり洗い流したつもりなのさ。
悪の枕もとには「大魔王サタン」がはべり
みいられたわれらの心をいつまでも揺すってくれる、
われらの意志という、値打ちの高いあの金属も
この錬金博士にかかっては跡かたもなく蒸発する。
要するに「悪魔」に糸を引かれているんだ!
胸くそ悪い品々ばかりに気をそそられて、
日ごと「地獄」の方へ一歩一歩とおりて行くんだ、
恐れも知らず、悪臭ふんぷんの闇をわたって。
たとえば貧しい道楽者が、年を経た淫売の
見るも無惨な乳房を舐めたり噛んだりするように、
われらは道々ひそかな快楽を盗み取っては
そいつをしなびたオレンジみたいにとことん搾りぬく。
百万匹の蛔虫さながら、ひしめき、うごめき、
われらの脳味噌の中では「悪霊」の群れが乱痴気さわぎ、
そこでわれらが息を吸うたび、肺の中へと流れこむのは
「死」だ、見えない河さ、かすかな嘆きの声を立てて。
かりに強姦、毒殺、刺殺、放火のたぐいが、
それぞれの楽しい図柄で、いまもって
われらの哀れな運命の陳腐な画面を賑わせていないとすれば、
それはわれらの魂が、なさけなや!度胸に欠けるだけのこと。
だが、ジャッカルや、豹や、山犬や、
猿や、蠍や、禿鷹や、蛇や、
およそわめいて、吠えて、唸って、地を這う怪物どもが、
われらの悪徳のおぞましい動物園を形づくっている中に、
一匹だけ、もっと醜い、もっと邪悪な、もっと下劣な奴がいる!
大げさな身ぶりもせず 大きな声も立てないが、
いざとなれば喜んで地球を廃墟にするかも知れず、
あくび一つに世界を呑んでしまうかも知れない。
その名は「倦怠」! ――思わずも目をうるませて、
水煙管をふかしながら死刑台の夢を見ている。
ご存じですな、読者よ、扱いにくいこの怪物を、
――偽善の読者よ、――わが同類、――わが兄弟よ!
ボードレーヌ「悪の華」序詩 安藤元雄訳
ああ、俺という男は。造化のいたずら、出来そこない、
しなをつくってそぞろ歩く浮気な森の精の前を、様子ぶってうろつき廻るにふさわしい粋な押出しが、てんから無いのだ、この俺には。
あのおためごかしの自然にだまされて、美しい五体の均整などあったものか、
寸たらずに切詰められ、ぶざまな半出来のまま、この世に投げやりに放りだされたというわけだ。
ゆがんでいる、びっこだ、そばを通れば、犬も吠える。
そうさ、そういう俺に、戦も終わり、笛や太鼓に踊る惰弱な御時世が、一体どんな楽しみを見つけてくれるというのだ。
日なたで自分の影法師にそっと眺め入り、そのぶざまな形を肴に、即興の小唄でも口ずさむしか手はあるまい、
口先ばかりの、この虚飾の世界、今さら色男めかして楽しむことも出来はせぬ、
そうと決れば、道は一つ、思いきり悪党になって見せるぞ、
ありとあらゆるこの世の慰みごとを呪ってやる。
シェークスピア 福田恆存訳
しなをつくってそぞろ歩く浮気な森の精の前を、様子ぶってうろつき廻るにふさわしい粋な押出しが、てんから無いのだ、この俺には。
あのおためごかしの自然にだまされて、美しい五体の均整などあったものか、
寸たらずに切詰められ、ぶざまな半出来のまま、この世に投げやりに放りだされたというわけだ。
ゆがんでいる、びっこだ、そばを通れば、犬も吠える。
そうさ、そういう俺に、戦も終わり、笛や太鼓に踊る惰弱な御時世が、一体どんな楽しみを見つけてくれるというのだ。
日なたで自分の影法師にそっと眺め入り、そのぶざまな形を肴に、即興の小唄でも口ずさむしか手はあるまい、
口先ばかりの、この虚飾の世界、今さら色男めかして楽しむことも出来はせぬ、
そうと決れば、道は一つ、思いきり悪党になって見せるぞ、
ありとあらゆるこの世の慰みごとを呪ってやる。
シェークスピア 福田恆存訳